皆さんこんにちは、S-style編集部のマタギです。
気仙沼市唐桑にある民宿『唐桑御殿 つなかん』をご存じでしょうか?
その民宿と、そこに集う人たちの約10年を追った映画『ただいま、つなかん』が公開されます。
本作の監督は、テレビ報道の現場で現役でディレクターを務める風間研一さん。
今回は風間監督に、10年以上に渡る取材撮影についてや初監督作品への想い、そして本作の主人公・一代さんについてなど、お話をお聞きしました。
©️2023 bunkakobo
『唐桑御殿 つなかん』は、宮城県気仙沼市唐桑半島の鮪立(しびたち)という地域にある民宿です。
菅野和享(やすたか/愛称・やっさん)さん、一代(いちよ)さん夫妻が東日本大震災当時、津波により浸水した自宅を補修。学生ボランティアの拠点として開放し、半年間で延べ500人を受け入れてきました。
「つなかん」という名前は、鮪立の「鮪(ツナ)」と菅野の「菅(カン)」を合わせ、学生たちが命名。
その後、「学生ボランティアのみんながいつでも帰って来られるように」という一代さんの想いから、2013年秋に民宿に生まれ変わり、唐桑のシンボルとして多くの人が訪れる場所となりました。
今作は、女将の一代さんとやっさん、民宿「つなかん」、そしてボランティアを機に気仙沼に移住を決めた多くの若者たちの物語。3.11からコロナ禍まで、多くの人の笑顔と涙、心の交流が映し出されています。
映画の舞台となる民宿『唐桑御殿 つなかん』 ©️2023 bunkakobo
東日本大震災直後。つなかんを拠点に活動する学生ボランティア ©️2023 bunkakobo ©️加藤拓馬
風間監督2012年2月、テレビ朝日の朝の情報番組『モーニングバード!』に所属していた当時、震災1年の企画募集があったんです。何か企画を考えたいと思い、全国紙や地方紙を見ていた中で、河北新報に掲載された一代さんの記事を見つけました。被災した自宅を開放し、学生ボランティアを受け入れて支援をしている被災者の女性がいるという内容でした。このことについての企画が採用され、取材のために唐桑に足を運んだのが一代さんとの出会いでしたね。
その特集限りの取材で、ほかの企画と変わらずに1回で完結すると思っていたので、まさかその取材が10年以上も続くとはその当時はまったく思っていませんでした。
学生ボランティアに牡蠣養殖の仕事をレクチャーする一代さん ©️2023 bunkakobo
風間監督企画を終えて、民宿に変わった時に個人的に「つなかん」に泊まりに行ったんです。その時にもう一度取材したいと思ったんですよね。
2015年に訪問した際に、学生ボランティアの方たちが唐桑に移住しているということを知ったんです。劇中に、元学生ボランティアの「みっぽさん」と「さちをさん」が唐桑への移住者として登場するシーンがあるんですが、実は僕もカメラを回しているあの時に初めて2人にお会いしたんです。そしてあの瞬間に、2人がボランティアをきっかけに移住したという事実を知りまして。「これはどういうことだろう…」と思いました。
僕みたいにたまに行くのと、そこに定住するということは意味が大きく違うじゃないですか。それも大学を卒業してすぐに移住。唐桑町といういう気仙沼市中心部からもちょっと遠いところにわざわざ来るというのが不思議だったんですよね。お店も多いわけではないし、住むのに便利かと言われたらそうではない場所にわざわざ移住しに来ている子がいる。それも1人、2人ではなく10人弱も。これは何か不思議な現象だな、化学反応が起きているんだなと感じました。
それでもっと「つなかん」に関わっていきたいと思ったんです。
©️2023 bunkakobo
唐桑の伝統芸能・「松圃⻁舞」の太鼓を演奏する若き移住者 ©️2023 bunkakobo
風間監督さらに一層取材しなければと思ったのは、2017年に起きた海難事故がきっかけでもあります。
海難事故を受けて、使命感のようなものを強く感じました。自分がこれまで見てきたものもふまえて、「つなかん」というものを見つめ続けなければいけないと思いましたね。そこからは、一つひとつの点が繋がり、完全に線になって、そして太くなっていったように感じます。
風間監督見たまんまの方ですね。明るく元気に、「つなかん」に来たお客さんを迎える方。誰に対しても分け隔てなく接するところが彼女の素敵なところだと思います。初めましての人も常連さんも、同じように出迎える。それは簡単に見えて簡単ではありませんから。
例えば、「つなかん」に泊まりに何度も訪れる企業の社長さんがいるのですが、一代さんは経歴や肩書にかかわらず、皆と同じように接するんです。そういうところに居心地の良さを感じて、何度も足を運びたくなるんじゃないかと思いますね。
皆へ平等に愛情を持って接するところが、一代さんの魅力なのかなと思います。
風間監督まったく喋らない人です(笑)。取材に行って「おはようございます!」と挨拶してもスルーされるくらい、本当に無口(笑)。一代さんがとってもおしゃべりじゃないですか。それと対照的なんですよね。
あまりに喋らないので、最初嫌われているかなと思っていたんです。そんな時、船に乗って海を撮影することがありまして。その時に一代さんから、「やっさんが撮影しやすいように船を回してくれているよ」と言われたんです。やっさんが自然とこっちの空気を読んで、遠回りして船を運転してくれていたんですね。何も喋らないけど、空気を察知して接してくれる優しい方なんだなと感じました。
でもその後もう一度挨拶すると、スルーするんですよね(笑)。
そういうやっさんを知ったうえで、みんなやっさんが大好きなんですよね。
⺠宿の常連客と。元ボランティアの移住者を紹介し談笑する ©️2023 bunkakobo
風間監督田舎にあるごく普通の住宅が、ある出来事をきっかけに、ひとりの女性を中心としていろんな縁を繋げていく現象を残していきたいという想いがあったからです。これまで様々な現場に取材に行きましたけれど、こういう現象には簡単には出会えません。それが偶然出会えたということに責任を持って、できる限り追っていきたいと思ったのが理由ですね。
大漁旗で宿泊者を見送る一代さんやスタッフ ©️2023 bunkakobo
風間監督テレビだと1回放送したら終わってしまう。そうではなく、これまで記録してきた目の前の現象をちゃんと残す方法として、映画が一番効果的だと思ったんです。
それからテレビは長くても放送時間がだいたい30分ほど。
これまで何度かテレビ放送もしましたが、撮影してきたものの中でいいシーンだなと思っても、尺の関係で使えないというものがいくつもあったんですね。それをどうにか使いたいという気持ちがずっとありました。映画であれば余すことなく映像を盛り込むことができますから。
例えば、一代さんが涙するシーンは映画で初めて放映される場面なんです。それは初めから終わりまでちゃんと流さないと、涙の理由が伝わらないと思ったから。映画の長さだからこそ届けられる映像がたくさんあったので、このような形を選びました。
風間監督語りと音楽は気仙沼に縁のある人にお願いしたいと考えていたんです。中でも語りは、やっさんと一代さんのことを知っている方にやっていただきたいという想いがありまして。
謙さんは、NHKの取材で震災直後から気仙沼を何度も訪れていて、市内で『K-port』というカフェもやられています。そして、菅野ご夫妻のことも知っている。やっさんの船に乗って、牡蠣の養殖の現場を見たりしているんですよね。これが、謙さんにお願いしたいと思った理由です。
ナレーションができるノウハウがあって、さらに菅野ご夫妻、特にやっさんを知っている人ってとても貴重なんですよね。そんなことでド正面から企画書を持って謙さんの事務所に行き、この作品への気持ちをぶつけました。謙さんからもご快諾いただき、自分の思い描いていた形が叶いました。
風間監督謙さんがカバンから原稿を出した時に、赤ペンでびっしり書き込みがしてあるのが見えたんです。結構読み込んでくださっているのがわかり、打合せも5分くらいで終わりました。謙さんもやっさんと一代さんを知っているうえで原稿を読んでいるので、「こういう風にナレーションを言い換えたい」と要望があったりもしました。
僕と謙さんの気持ちを確認し合いながら、語りを作っていった印象があります。
風間監督今回、作品のために4曲作っていただきました。
作曲の前に、岡本さんと一緒に「つなかん」に行って、一代さんとお話してから制作が始まりました。
岡本さんへは一代さんをイメージした「一代さんのテーマ(仮)」と、「学生ボランティアのテーマ(仮)」を作ってほしいと伝えました。『一代さんのテーマができました』とご連絡をいただいた時は、音源を聴いた瞬間泣きましたね。イメージにぴったりの曲を作ってくださいました。
風間監督もちろんです!「つなかん」はこれからも続いていきますから。いろんな変化がある場所だと思うので、ちゃんと記録して、残していきたいと思っています。
風間監督『ただいま、つなかん』は一代さんを中心として、震災ボランティアの若者たちとの交流を映した作品です。人間関係や絆、人との繋がりというものを改めて考えるきっかけになるといいなと思っています。コロナ禍の今、人との距離感などについて色々感じることがあると思います。そんな今だからこそ、この作品を観て交流や絆について考えてもらえたらうれしいです。
ぜひ劇場でご覧ください。
風間研一監督
【公開情報】
『ただいま、つなかん』
2023年2月24日(金)公開
監督/風間研一
語り/渡辺 謙
音楽/岡本優子
上映館/フォーラム仙台
公式サイト/https://tuna-kan.com/
趣味は山登り。山頂でコーヒーを飲み、下山後は銭湯に直行、ラーメンを食べて帰るのが理想の休日。最近は「Netflix」「Amazon Prime Video」「U-NEXT」を使いわけて、ドラマ・映画鑑賞の沼から抜け出せないでいる。
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