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2023.12.05

伊坂幸太郎『777 トリプルセブン』インタビュー!近況を含めた新作への想いを伺いました

2023年9月に刊行された『777 トリプルセブン』(KADOKAWA)。『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』に続く、殺し屋シリーズの4作目となり、実質的にはブラッド・ピット主演で映画化もされた『マリアビートル』の続編に当たる本作。仙台在住の人気作家に近況を含めた新作への想いを伺いました。

あらすじ

『777 トリプルセブン』(KADOKAWA/1,870円)

ツキに見放されている殺し屋の七尾。通称「天道虫」と呼ばれる彼は、超高級ホテルの1室に絵を届ける仕事を請け負う。「簡単かつ安全な仕事」のはずだったが、なぜか殺し屋たちが続々と現れ、七尾は彼らの争いに巻き込まれていく。一方、同じホテルには驚異的な記憶力を持つ女性・紙野が、ある人物から逃れるために身を潜めていた。

インタビュー

今作の『777 トリプルセブン』は書き下ろしになるんですよね。

伊坂そうです。ここ10年くらい連載はやってなくて、ほぼ書き下ろしなんです。2021年から2年くらいかけて書いてたのかな。『マリアビートル』がハリウッドで『ブレット・トレイン』という映画になったんですけど、主演のブラッド・ピットさんが楽しかったみたいで「続編はないのか」っていう話がエージェント経由で来たんです。僕はほかに書かなきゃいけないものもあるし、「好きに作ってもらっていいですよ」っていう感じだったんですけど、プロデューサーから「でも、イサカが作ったほうがおもしろくなりそうじゃない?」と。「そう言われたら悪い気はしないなあ」と(笑)、プロットだけ考えることにしたんです。

ブラッド・ピットからの話がなければ、書くはずのなかった作品だったと。

伊坂そうなんですよ。小説の最初に「絵を届けた先が間違ってる」というコントみたいなエピソードがあるんですけど、そのシーンを書いた時に「あ、これは僕が書かないとおもしろさが伝わらないかも」と不安になっちゃって。セリフの間とか話の段取りとかが。で、書き始めたら「結構おもしろいぞ」と思えて、「さささっと書けば3ヵ月くらいでできるんじゃないかな」と思っていたら2年もかかっちゃって。まあ、僕の場合、毎回そうなんですけどね。

読んでいて、すごくテンポがいいなと思ったんですが、それは意識してますか?

伊坂意識してますね。今の人たちって時間がないから、映像でも音楽でも短いものを求めるじゃないですか。だから、とにかく展開を早く、全部をぎゅーっとしたい、と思っています。予想できるようなところは全部はしょりたい。今回も、あるキャラクターが死ぬところを描かずに、次のシーンで「〇〇が死んだんです」とセリフで説明しました。読者の予想を裏切りたいというか、段取りを省きたくなるんですよね。せっかちなので(笑)、次に行きたい。そういう、はしょり方とか語る順番に個性が出ると思います。
アクションシーンも続くと自分で書いていてつまらないので、逆にアクションしないで2秒で終わるパターンをやってみようかな、とか。説明が必要な設定だと長くなっちゃうから、回りくどくなっちゃうなと思って設定ごとなくしたりとか。「どうやって短くするか」は常に頭にあるかもしれないですね。

伊坂作品にはいろいろな2人組が登場しますが、バディものがお好きなんでしょうか。今作で好きな2人組がいれば教えてください。

伊坂高校時代に見た『ミッドナイト・ラン』というバディものの映画がすごく好きで、それ以来、男性のコンビはよく登場させてます。反発しあいながら段々友情を深めていくのとか、好きなんですよ。2人だとかけ合いで進めやすいし、分かりあう喜びや別れちゃう寂しさも描けますし。そういうのがたぶん好きなんですよね。
今回の小説だとマクラとモウフは思い入れがあります。ホテルを舞台にすると決めた時に、シーツを使って倒すアイディアはすぐに浮かびました。最初は小柄な男の子の2人組だったんですよ。そのバージョンが結構好きだったんですけど、途中で変えたんです。今でも男性バージョンに未練が少しあります(笑)。

殺し屋たちの名前もおもしろいですよね。

伊坂毎回、名前は結構悩むんですよ。6人組のカマクラとかヘイアンは奥さんのアイディアです。統一感のある呼び名がいいなと思って、曜日とかアルファベットとか考えていたんですが、ある時奥さんがひらめいて。“今まで(奥さんからもらったアイディアの中)で一番助かった”と喜んだら“じゃあ今までは?”と不満そうでした(笑)。

6人組で言うと、セリフだけなのに誰がしゃべってるかわかるのがすごいなと思いました。

伊坂そこに気が付いてくれるのはうれしいです! あれは一応、技術的に頑張っているつもりなんですよ(笑)。自己満足ですけど、「いかに情報を少なくして、読者に分からせるか」をどの作品でも考えているので、上手くできると「うわー、俺頑張ってるぞ」とちょっとうれしい(笑)。
あと、会話劇だとページの下半分がスカスカになっちゃうのが嫌で、1行に3人分入れたりとか、地味にこだわりはあります。

あれ、同時にしゃべってるみたいですごかったです。

伊坂ありがとうございます。昔から、よく会話ばっかりだよねって言われるんですけど、意外に工夫しているつもりではいるんですよね。自分ではそういう点をあまりアピールできないので、気づいてくれてうれしいです。本1冊、早い人だと2~3時間で読んじゃうと思うんですけど、僕は2年かけて書いているので(笑)、そういうところまで見てもらえたらありがたいです。

伊坂さんのインタビューと撮りおろし写真は、S-style12月号にも掲載!
Web版とは違うトピックを掲載していますので、こちらもお見逃しなく。

ogen
おげん

てんびん座O型の新人編集者。好きな食べ物は笹かまぼこ。自分史上最もおいしい笹かまぼこを決定すべく、色々なお店の笹かまぼこを食べ比べる日々を送る。どれもおいしくて選べそうにない。