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2023.10.11

〈公開直前!〉『キリエのうた』岩井俊二監督&アイナ・ジ・エンド来仙インタビュー【ノーカット編集版】

10月13日(金)の公開に先駆けて、仙台でのPRを行った岩井俊二監督と主演のアイナ・ジ・エンドさん。
作品の紹介とインタビューの模様はS-style10月号(9/25発売)とKappo11月号(10/5発売)の誌上でも掲載中!
こちらでは、インタビューの一問一答をノーカットでお届けします。
これを読んでから劇場に足を運べば、より一層映画の世界に浸れること間違いなし!

【作品紹介】

©2023 Kyrie Film Band

歌うことでしか声が出せない路上ミュージシャンのキリエを中心に、出会いと別れをくり返していく4人の男女の13年におよぶ壮大な魂の救済の物語。
『スワロウテイル』を生んだ岩井俊二監督、小林武史のタッグによる新たな音楽映画。
アイナ・ジ・エンドが映画初主演。

『キリエのうた』公式サイトはこちら

監督・原作・脚本/岩井俊二
出演/アイナ・ジ・エンド、松村北斗、黒木華、広瀬すず、村上虹郎、松浦祐也、笠原秀幸、粗品、⽮⼭花、七尾旅人、ロバート・キャンベル、大塚愛、安藤裕子、江口洋介、吉瀬美智子、樋口真嗣、奥菜恵、浅田美代子、⽯井⻯也、豊原功補、松本まりか、北村有起哉
音楽/小林武史
主題歌/『キリエ・憐れみの讃歌』Kyrie(avex trax)

【上映館】
TOHOシネマズ仙台
フォーラム仙台
MOVIX仙台
イオンシネマ新利府
イオンシネマ名取
109シネマズ富谷
シネマ・リオーネ古川
イオンシネマ石巻
ユナイテッド・シネマ フォルテ宮城大河原

自分と重なる部分も多いキリエの気持ちには、共鳴するばかりでした(アイナ・ジ・エンド)

この『キリエのうた』で、岩井俊二監督、小林武史さんとご一緒されていかがでしたか?

アイナ・ジ・エンド私のお父さん世代なんですよね、岩井さんや小林さんて。そのせいなのか、ご一緒した現場でも、不思議と緊張したり、気を遣ったりすることが無くて。“やりやすかった”と言ったらおこがましいですけども、心をさらけ出すことができた感じはありました。はじめて岩井さんに会った日から、私が路上ライブをしていたこととか普段はあまり人に言わないようなことを自然と話したり。何も気を遣わずにいられたのは本当に助かりましたし、こんな何もわからない私のことを受け入れてくださって、心を開かせてくださった。本当にありがたい経験だったと思います。

岩井監督にはどんな印象を持ちましたか?

アイナ・ジ・エンド大きな木みたいな男性で。何でもすごく受け止めてくれるんですよね。私にとっては、楽曲のデモ(音源)を送るのって、裸を見られるより恥ずかしく感じることなんです。手が震えるくらい不安で、ものすごく勇気を出して送るんですよ。その段階だと、曲といってもまだギターと声のちっぽけなものなので、いい曲でもないですし。それなのに“すごくいいね”って言ってくださって、 ピアノをちょっと弾いて送り返してくださったり。それから、撮影の空き時間にギターを教えていただいたこともありました。

それを受けて岩井監督はいかがですか?

岩井俊二いや~、もう、なんか照れくさいですけど(笑)。まず、アイナさんには存分に自分の表現力を発揮してほしいなと思っていたので、カバーできるところはもう精一杯カバーしようと思っていました。

今作では、劇中6曲もの楽曲をアイナさん中心に作詞作曲されています。制作において、大切にしていたことなどはありますか?

アイナ・ジ・エンド考えていたことはたくさんあるんですけど、今回演じたキリエ(路花)は、小学生くらいから人とうまく喋れない。その役の中で歌う歌だったので、キリエ自身が難しい日本語はあまりわかってないんじゃないのかなと思ったんですね。だから、“楽しい”“うれしい”“悲しい”、それから“月が見えるね”とか、そういうみんながわかるような歌詞をイメージして作ろうとしました。普段のアイナ・ジ・エンドとしての制作とは、また少し違った制作方法を試みたりしています。

楽曲の制作にあたっては、監督に相談されたりもしたんですよね?

アイナ・ジ・エンドそうですね。…でも、相談っていうか、私が曲をなかなか送らない、 送れずにいて、“どうしよう、どうしよう”ってなっていたんです。でも、岩井さんは“アイナさんが全部作ったほうがいいですよ”って、焦ることもなく応援してくれる感じで助けてくれました。

キリエの歌声はとても気持ちよく、心に響きました。役を演じるうえで、心がけたことはありますか?

アイナ・ジ・エンド私自身も4歳からダンスをやっていたんですね。それで、言葉を発さずにコミュニケーションができるダンスを通じて友達ができたりした経験があったんです。そして、歌っている時にだけ生き甲斐を感じたり、むしろ、歌とダンスをやっている時以外の自分は大嫌いだったりするような子供時代でした。だから、歌うときにしか声が出せないキリエの気持ちが少しわかるというか、私の居場所は“歌”なんだっていうキリエの気持ちには共鳴する部分ばかりでしたね。役を作って作ってというよりかは、 自分の心の引き出しを開けて“人とうまく関われないけど、歌が大好き”だったあの頃の自分を引っ張ってきて、役に入り込むという感じでやらせていただきました。今回いただいた役がすごくスムーズに自分にはまったので、岩井さんにすごく感謝だなと思います。

岩井監督は『リリイ・シュシュのすべて』(01)以来の音楽映画となるわけですが、今作はアイナさんの圧倒的な歌声が印象に残る作品でした。監督として、音楽映画作りでこだわっていること、意識していることはありますか?

岩井俊二初めてのアプローチといえば、この作品ではできる限り“音”を現場で録ろうって決めて進めました。後から仕上がった音を当てはめるんじゃなくて、できる限りその現場の音をそのまま聴いてもらいたいというか。役者さんが喋っているセリフの流れの中に“音楽もいる”みたいなライブ感っていうのを、今回はすごく意識して。ギターが多少間違っていても、多少音程がどうにかなっていても、“そこがリアルだな”っていうところを目指したかったという感じですね。

様々なシチュエーションとキリエの歌声の組合せが印象に残りました。お二人それぞれ一番気持ちよく感じた場面はありますか?

岩井俊二はじめは路上で、マイクも音響もなく歌っている女の子から始まって、少しずつ仲間を得ながら、音も大きくなっていって。持ち歩いている荷物もだんだん重くなってきて、そこに彩りも加わってというところを描きたかったし、それは彼女に仲間が増えていくっていう一つの姿なんです。ただ一方では、音がどんどん増えていくことが、より良い音楽に進んでいるっていうことではなかったり。何の楽器もなく、彼女が雪景色の中でただ歌う声のすごさというのも感じてもらいたいなと欲張りながら、映画の中ではいろんなアプローチをしたかなと思います。

アイナ・ジ・エンドいろいろと思い返してみたんですけど、気持ちよく歌っていた場面はなかったかもしれないですね。 “これを歌い終わったら、また生きづらい、しゃべりづらい自分に戻ってしまう”っていう、ヒリヒリとした心の狭間で歌っていたのがキリエかなって。全部解放して歌っているように見えても“ずっとこのまま行けるのかな”“やっぱり無理だよな”っていう不安や諦めがどこかにある。役を離れてやっと、“いつかキリエが気持ちよく歌えたらいいな”って感じていますね。

キリエのパワフルでエモーショナルな歌声を映画の中で響かせる、その使命感を感じて(岩井俊二)

改めて、岩井監督が今回この『キリエのうた』を制作したきっかけは何だったのでしょう?

岩井俊二仙台で撮影して、コロナ禍直前に公開された『ラストレター』(20)という映画があったんですね。その劇中に、福山雅治さん演じる乙坂鏡史郎という小説家が登場するんですが、若い頃に彼が書いたという設定の『未咲』という小説が出てくるんです。『ラストレター』の中では映画の小道具の一つではあるんですけど、僕の大学時代の思い出も半分くらい織り交ぜながら実際に書いていた小説で、その撮影の時には中身もできていたんです。実は、福山さんもその本を読んで役作りをされていたりして。その小説のエピソードの1つに、登場人物の1人が撮影したとされる8ミリフィルムの話があって、それがこの『キリエのうた』の原型になっています。ある時にふと、“そのエピソードだけで映画を作れないかな”と思い立って。はじめは、その小説の役から出てきたミュージシャンと、それをマネジメントする女の子の珍道中的な物語にしようかなっていうぐらいの軽い気持ちで書き始めたんですけど、書き進めるうちに震災のエピソードが加わってきたりして、だんだん肉付けされていったんですね。そこに、アイナさんの非常にパワフルでエモーショナルなボーカルを映画の中で響かせていくというイメージが加わって、どんどん自分の中で膨らんでいって。僕がそのステージを作んなきゃいけないという使命感のようなものを感じながら物語を書いていくうちに、気が付いたら3時間という大作になっていたんです。

今のお話にもありましたが、作品の中には震災の描写もあります。どのような思いで組み込まれたのでしょうか?

岩井俊二震災の翌年、『花は咲く』(作詞/岩井俊二、作曲・編曲/菅野よう子)を書いていた頃に、その裏で書いていた短編小説があって。「フルマラソン」っていうタイトルで、仙台と石巻を繋ぐ約42kmの道のりを夏彦という少年が走るという物語だったんです。この『キリエのうた』の中に、松村北斗くん演じる(潮見)夏彦という役があるんですけど、原型はその短編小説。当時、書き上げたはいいんだけど、なんだかこう…、出口のない話で。世に出していいんだろうかという迷いもあって封印していた物語だったんですが、今回、アイナさん演じるキリエと広瀬すずさん演じる逸子さんという二人の物語を展開していくうちに、“あの夏彦の物語はここに入るんじゃないか”と思ったんですね。そこで、10年ぶりぐらいにその物語の紐を解き直したんですが、ここにこの物語を入れ込むんだったら、アレンジして物語をフィットさせていくのではなく、当時書いた思いのままにこのまま入れてしまったらどうなるかっていうチャレンジをしたくなったんです。無茶な実験ではあったんですけど、そのままズドンと入れたてみたら、この物語全体の形が自分の中で見えてできあがっていった。もしかしたらこの映画のために「フルマラソン」という短編小説があったのかもしれないと、なんだか不思議な気持ちにもなりました。

今回、宮城県石巻市でもロケを行ったということで、何かエピソードがあれば教えてください。

岩井俊二(松村)北斗くんの撮影をしていると、その脇を自動車で走っている人たちが妙に慌ただしく偵察に来たりして(笑)。田んぼしかないようなところだったり、暗がりの中で姿かたちなんて見えないような現場でも、すれ違った女性が話しているのを聞いたりして“なんでバレるんだろう”って。いろんな場所で撮影したんですけど、とにかく見つかってしまう北斗くんが、すごく懐かしい思い出になっていますね。

アイナ・ジ・エンド撮影の空き時間に唯一お散歩したのが石巻の街で。松村(北斗)さんのシーンの撮影で、2時間ぐらい空いたのかな? 散歩しながら周りの景色を見ていたら、東京とか大阪では見たことがないような綺麗で鮮やかなお花が咲いているんですよね。きっと街の方が植えて水をやって育てたんだろうな、綺麗だなと思って見ていたら、すっごく太った野良猫が歩いて来て(笑)。“あ、この猫もいっぱい街の人にご飯もらっているんだろうな”と思ったら、なんだかすごくこう、あたたかい心になったというか。そんな石巻の穏やかな風を感じながら、フィルムカメラで猫を撮ったり。自分一人だけの思い出なんですけど、一生忘れたくないぐらいすごくあったかい思い出ができました。

この『キリエのうた』を観て、どのような人に、どのように感じてもらいたいでしょうか。

アイナ・ジ・エンド老若男女、幅広い世代の皆さんに観ていただきたいですね。13年間を描く中でシーンごとに時代が行ったり来たりしますが、髪型なんかも時代ごとの流行りを取り入れていたりするんです。私と同世代の女の子が観たら、そのへんも懐かしいと感じたりするかもしれないなとも思いました。音楽が好きな人が観ても絶対に楽しいし、私のおばあちゃんやおじいちゃん世代にも観てほしい。本当に、みんなに観ていただけたらうれしいなと思います。

岩井俊二まずは、アイナ・ジ・エンド演じるキリエの歌声を堪能してほしいです。それから、(松村)北斗くん演じる夏彦、(広瀬)すずさん演じる逸子さん、黒木華さん演じる風美先生と、それぞれが本当に個性豊かな登場人物たちなので、ぜひ劇場に会いに来てほしいなと思います。あとは、音楽映画ということでいえば、キリエは昭和世代にも懐かしく感じるような、誰もが知っている歌も映画の中で歌っていますので、そういう部分も幅広い世代の皆さんに楽しんでいただけるかなと思います。僕らより上の世代の人たちには、若い才能たちが今これだけ光輝いているんだということを見て、英気を養っていただいて、明日の元気に変えてもらえたらなと思います。

キリエを演じたアイナ・ジ・エンドさんがバスや地下鉄でアナウンス!

仙台市交通局では、仙台市でもロケを行った『キリエのうた』とのタイアップを実施中!
10月20日(金)まで、バスや地下鉄のアナウンスでアイナ・ジ・エンドさんの声が流れていますよ。
駅構内や車内のポスターでもコラボしていますので、まだ見ていない人は要チェック。

仙台市交通局×『キリエのうた』タイアップの情報はコチラ

モツヲ
モツヲ

趣味は食べ歩きと勝手に決めつけられるものの、じつは小食。山形県北東部のカルデラの中で思春期を過ごし、性格は∞のようにねじ曲がってしまった。ベガルタ仙台を取材していた経験から、Jリーグと各クラブのホームスタジアムには結構行っている。ビジネスホテル好き。