SNS

2023.09.29

【原田眞人監督が来仙!】ハラハラしっぱなし!映画『BAD LANDS バッド・ランズ』の裏側を語る!

9月29日(金)より公開の映画『BAD LANDS バッド・ランズ』。
公開を前に、監督、脚本、プロデューサーを務めた原田監督が来仙!
原作との出会いから撮影の裏側まで、たっぷりと話してくれました。
のっけからハラハラドキドキが止まらない、クライム・サスペンス・エンタテインメント。
監督のコメントを読めば、さらに楽しめること間違いなし!

【作品紹介】

©2023『BAD LANDS』製作委員会

ネリと弟のジョーは、生きるため特殊詐欺に加担してきた。
ある夜、思いがけず“億を超える大金”を手にしてしまった2人。
さまざまな巨悪が迫る中、決死の逃亡劇を繰り広げていく。
果たしてネリとジョーは、この“危険な地”から逃れられるのか…。
直木賞作家の黒川博行の小説『勁草』を映画化。
主人公のネリを安藤サクラ、弟のジョーを山田涼介が演じる。
https://bad-lands-movie.jp/

監督・脚本・プロデュース/原田眞人
出演/安藤サクラ、山田涼介、生瀬勝久、吉原光夫、大場泰正、淵上泰史、縄田カノン、前田航基、天童よしみ、江口のりこ、宇崎竜童
原作/黒川博行『勁草』(徳間文庫)
音楽/土屋玲子

ただの陰湿な話で終わらせず
ポジティブな映画に

(原田監督)

この『BAD LANDS バッド・ランズ』を観て、重いテーマながらも、あっという間にもうエンディングが来てしまうようなテンポのよさを感じました。今作は、原作が別にあって映画化されたという形ですが、 監督が原作と出会われたきっかけは?

原田監督原作は黒川博行さんの『勁草(けいそう)』です。それまでも黒川さんの小説をちょこちょことは読んではいたんですが、書店でちょっと立ち読みしたときに「会話がおもしろいな」という印象を受けて、じっくり読もうと思って購入したんです。2015年だったと思いますが、個人的にはちょうど関西弁の犯罪映画を撮りたいなって思っていた時期で。読み進めていくうちに、登場人物の関係性がすごくおもしろいんだけれども、ここは小説だと細かいことまで書けるからいいけど、映画だとどういう風に見せられるだろうと考えが進んでいって。“老人たちから搾取する”という重要な部分に、共感できるかできないかっていうのは、映画としては1つの大きなファクターになると感じたんです。“持たざる者”として描かれる老人たちに対する愛情や、連帯できる要素を持った主人公でないといけないと思ったんですよね。そこで、原作だと男性である主人公が、女性であれば成立するかもしれないと感じ始めて。主人公の橋岡が女性だとしたら「イングマール・ベルイマンが撮りたくなるような犯罪映画になるんじゃないか」とイメージが膨らんだんです。『鏡の中にある如く』や『サラバンド』のように、登場人物たちの関係に血の絆のようなものがあるような。読み終わったときには、その方向性で映画にしたいっていう気持ちになっていましたね。

そういったイメージが膨らんだうえで、今作では監督と脚本とプロデュースとをご自身でと考えられた?

原田監督監督はいつものことですからね。プロデュースまでやることにはなりましたけど、大体いつもと同じことしかやっていないという感覚ですよ。

ベースが小説であることで、脚本化する際に苦労された点などはありますか?

原田監督それは全くなかったですね。ただ、脚本化した時には、映画化権をまだ抑えられていなかったんですよ。実は、権利を別のプロデューサーが持っていて。そうしたら、なかなかそいつが手放さなくて。知り合いだったのもあって「もう、ええ加減にしろ」って何度も言ったんですけどね(笑)。結果としては、それで映画化が決まるまで6年かかったんですけど、待ってる間に自分の中のアイデアがいろいろと固まってきていて。勉強のためにという意識もあったので、ダメもとで自分で脚本書いていたんですよね。だから、脚本化するということについては、何のしがらみもなく、好きなように書けたっていう感じでした。

原作のタイトルは『勁草』ですが、『BAD LANDS』というタイトルはどのタイミングで決められたんですか?

原田監督まず映画にするとしたら、『勁草』っていうタイトルはほとんどの人が読めないだろう、と。「映画的なタイトルを考えなきゃいけない」となった時に、仮題としてつけたのがきっかけです。映画の舞台となる大阪の西成区だけじゃなくて、今の日本全体がそういう“BAD LANDS”になっているなっていうイメージがあって。同じタイトルのテレンス・マリックの作品もありますけど、 いつか『BAD LANDS』というタイトルの映画を撮りたいっていう気持ちもあったんですね。最終的には、主人公の(橋岡)ネリや(矢代)ジョーたちがアジトとするところを“BAD LANDS”という名前のプール・バーにすると決めてからです。ロケハンをしていて、すごくいい雰囲気の場所が見つかったので。

ネオン管など、すごく雰囲気のある場所だなと感じました。結構探されたんですね。

原田監督元々はああいう場所にするつもりではなかったんですよ。『ハスラー』のような、陰気で古臭いプール・バーを探していたんですけど、そういう物件はもう無くて。じゃあ、大きな箱でプール・テーブル(ビリヤード台)を入れられる場所ということで見つかったのがあそこです。実は潰れた洋服屋なんですよね。1階と2階に分かれているんですけど、「ここに“BAD LANDS”っていうネオンが点くようにしよう」とかアイデアがいろいろと出てきて。美術部がイメージ通りに仕上げてくれました。

キャスティングについてお聞きしたいのですが、安藤サクラさんと山田涼介さんのペアはどの段階で浮かんでいたのでしょうか?

原田監督(山田)涼介は早い段階で決めていました。『燃えよ剣』をやっているときには、もうこの『BAD LANDS』の脚本ができていたんです。今回の矢代穣(ジョー)という役は、現代に蘇った沖田総司のように感じる部分もあったので、沖田総司を演じる涼介を見ていた時に、チャーミングでもあり、サイコパスでもありという部分が今回のジョー役にぴったりだと感じたんです。だから涼介には、その時から「次は関西弁オンリーの役だからね。ちょっと練習しといてね」みたいなことは言っていたんですよね(笑)。

随分と早い段階から決められていたんですね。では、その後に安藤サクラさんとの組合せを考えられて。

原田監督とにかくネリは大阪出身の女優がいいなということを思っていたのですが、東映から「安藤サクラさんはどうでしょう?」という話が舞い込んできて。その時には、涼介には関西弁を練習させていたし、周りをすべて関西人や関西出身の演劇人で固めていたので「ここまで大阪、関西のクオリティを突き詰めていれば、主人公が大阪出身であることにはそこまでこだわらなくても大丈夫かな」と思って、まずは会ってみることにしたんです。会ってみたら、今まで僕がスクリーン上で見ていた安藤サクラ以上に、本人が魅力的だったんです。だから、彼女に合わせて、すぐにあの役を書き換えて。とはいっても、そんなに書き換える部分はなかったんですけどね。彼女は「このネリ役を引き受ける以上は、24時間このネリでいたい」という気持ちを持ってくれたんです。

映画の中では、関西弁のテンポの良さというのもすごく感じました。

原田監督これは僕自身が大阪に行ったときに感じた部分ですけど、電車に乗ってもどこに行っても「もう大阪人は全部吉本の人間じゃないか」と思うぐらい、言葉のテンポも速いし、やりとりが速いんですよね。だから今回の映画を撮っているときも「速く話してくれ」なんていう指示は出していないんですけど、自然にスピーディーな会話になっているんですよ。あれはもう、大阪の人たちの生まれ持ったテンポですよね。

脇を固める俳優陣も豪華な方々ばかりで。天童よしみさんがスクリーンに出てきた時には、すごい迫力でした。

原田監督天童さんの場合はもう、ひと目で大阪の顔ってわかる、そういう存在の方に出ていただきたかったんです。生瀬(勝久)さんや宇崎(竜童)さんは、ネイティブとしての関西弁をしゃべるし、この役にぴったりの年代というのもあったし。あとは今回の映画では、今まで映像作品に出たことがないサリngROCK発見の喜びが大きかったかな。

サリngROCKさんは観ている最中にも「この人誰?」という強烈なインパクトでした。

原田監督まだ手垢のついていない関西演劇人を、ずっとネットで探していたんです。そしたら『突劇金魚』という劇団が目に入って。ホームページを開いてみると、コテコテの化粧をしていて素顔も何もわからないので、インタビュー記事とかないかなと思って探したら見つかって。それまでは原作通りに林田という役は男で考えていたんですけど、記事を読んで「彼女にはぜひ出てもらおう」とすぐに決めて書き換えました。

予想外の出会いだったんですね。

原田監督作品としてはものすごくプラスな出会いでした。ただ一番怖かったのは、映画を撮ったのがもう1年半前なので、その話を聞きつけてテレビドラマとかにキャスティングされちゃうこと(笑)。過去にそういう経験もしたので、新鮮味が失われちゃうことが一番怖かったんですけど、なんとか大丈夫でしたね。たぶん、来年あたりにはNHKの大河ドラマに出るような俳優になるんじゃないかな。

そうそうたる俳優陣が揃って、アクションなどハードなシーンもありましたが、撮影で大変だった部分はありますか?

原田監督(安藤)サクラがすごく運動神経がいいんですよ。だからアクションでも、ここでこう引っかけて、ここでこう落としてって、うまく自然にできるんです。

では、アクションも含めて撮影は順調に進んで?

原田監督作品全体でいうと、一番大変だったのは冒頭の中之島プロムナードでのシーンですね。撮影で一般の通行人の動きを制限してはいけないという取り決めの中で撮らなくてはいけなくて。俳優とエキストラを配置しながら、結果として150人くらいを動かして。引きのアングルでもあったので、かなり時間がかかりましたね。そういう大規模で時間のかかる撮影もありながらも、スタッフとキャストの献身的な努力があって、なんとかスケジュールにはめ込んで、2か月ちょっとで予定をオーバーせずに撮影できました。

西成地区のパワフルさも感じたのですが、あのシーンに出演されているみなさんは、俳優さんやエキストラの方ですよね?

原田監督こちらで用意したエキストラだけではなく、実際に住んでいる方たちも出ていますよ。ある程度コントロールできる状況にして、リアルなドヤ街的な雰囲気を撮ろうと。リアリティと虚構のギリギリのところを行ったり来たりするような部分は狙っていました。

作品全体を通して、すごくテーマは重いのに、キャストの皆さんの力なのか、映像の力なのか、どこかポップな印象をずっと感じていました。

原田監督それは意識しましたね。ただの陰湿な話で終わらせたくはなかったんです。主人公のネリをはじめ、最低限で生きざるを得なかった、強いたげられた人々が起き上がってく、立ち上がっていく話にしないといけないと感じていて。そこは、原作とは違ったポジティブさを出した部分ですね。

幅広い年齢層の人が観て楽しんで、それぞれの世代で受け取るものも違うのかなとも感じました。

原田監督本当に年齢問わずに楽しんでいただくのが理想ですね。この生きにくい時代を生き抜いている若者たちには、ぜひ観てもらいたい。それから、題材として扱われている特殊詐欺に引っかかってしまいそうな年配の人にも絶対観てほしい。騙す側の人間やその世界を描いたものを観たほうが、きっと騙されないと思うんですよ。宮城県でもたくさんの劇場で公開されるので、ぜひ多くの人に観てもらいたいですね。

【原田眞人 PROFILE】
1949年7月3日生まれ、静岡県出身。
黒澤明、ハワード・ホークスといった巨匠を師と仰ぐ。
1979年に、映画『さらば映画の友よ インディアンサマー』で監督デビュー。
『KAMIKAZE TAXI』(95)は、フランス・ヴァレンシエンヌ冒険映画祭で准グランプリ及び監督賞を受賞。
映画『関ヶ原』(17)では第41回日本アカデミー賞優秀監督賞、優秀作品賞などを受賞。
映画『駆込み女と駆出し男』(15)、『日本のいちばん長い日』(15)、『検察側の罪人』(18)、『燃えよ剣』(21)、『ヘルドッグス』(22)など、数多くの作品を手掛ける。

【上映館】
TOHOシネマズ仙台
MOVIX仙台
イオンシネマ新利府
イオンシネマ名取
109シネマズ富谷
シネマ・リオーネ古川
イオンシネマ石巻
ユナイテッド・シネマ フォルテ宮城大河原

モツヲ
モツヲ

趣味は食べ歩きと勝手に決めつけられるものの、じつは小食。山形県北東部のカルデラの中で思春期を過ごし、性格は∞のようにねじ曲がってしまった。ベガルタ仙台を取材していた経験から、Jリーグと各クラブのホームスタジアムには結構行っている。ビジネスホテル好き。