フォーラム仙台にて7月28日(金)から公開中の映画『658km、陽子の旅』。
さえない人生を送るフリーターの40代独身女性・陽子を演じた菊地凛子さんが公開前の特別試写会に来場し、舞台挨拶を行いました。
『658km、陽子の旅』
フリーターとして引きこもり生活をする陽子(菊地凛子)は、かつて夢への挑戦を反対され20年以上断絶していた父が亡くなった知らせを受ける。
従兄の茂(竹原ピストル)とその家族とともに実家のある青森県弘前市に向け出発するも、茂の子どもが起こしたサービスエリアでのトラブルをきっかけに置き去りにされてしまうことに。
出棺は明日正午、果たして間に合うのか。
舞台あいさつ後にはインタビューに答えていただいたので、ここからはその模様をお届けします。
菊地すごくあたたかく受け入れてくださっている感じがあってうれしかったです。皆さんに作品の中でどこか響くところがあったらいいなと思いますし、来られてよかったと思っています。
菊地じつはずんだシェイクが大好きで。そのために少しでも早く仙台に来て買うということを目標にしてきました(笑)。家族にも飲ませてあげたいっていつも思うんですけど、溶けちゃうから難しいんですよね。
菊地じつは、東北にはわりと縁があって。仙台に友人がいたり、親せきが福島にいたりして、もともと距離が遠く離れている感じがそんなにしなかったんです。映画の中ではいろんなシーンがありますが、シネマ的な風景がすごく多いなっていう印象がありましたね。あとは東北の冬っていうのはすごくいいなと思いました。なんだか詩的な雰囲気になりますよね。これが「南に向かう」っていう話だと主人公の陽子もまた違う人生だったかもしれないと感じますし。東北に向かうというストーリーで、すごく映画的になってよかったなと思います。
菊地撮影のときにはまだコロナ禍だったということもあって、スタッフ間でも最小限の接触しかできない状態で。みんなでご飯に行ったりもできなくて、お弁当でさえも一人で食べるしかなかったんですよ。でも、映画を作るということでいえば、そういう状況で一致団結することができた面もありました。すごく濃密な時間にできたと思っています。
菊地英語やフランス語、手話もやったことがあったり、ほかの言語を話すような役をずっとやってきたので、津軽弁もその一つのような感じでしたし、すごく楽しかったですよ。でも、なぜか大阪弁や福島弁みたいなイントネーションが混じっちゃって(笑)。それをちょっとずつ修正していきましたね。
菊地そうですね。陽子はすごく特徴的な人に見えるのかもしれないけど、そんなに特別ではないというか。こういう子がじつはたくさんいるんじゃないかと感じていて。私も陽子ほどではなくても、人とのコミュニケーションを難しいって感じたり、ふさぎ込んだり、そういうところはたぶんあると思うんです。過去も見れないし、未来も見たくないって思っちゃって、今にずっと留まっちゃう。長い人生の中でみんな一度や二度は経験しているようなことだし、演じていてすごく身近に感じられたんです。そんな中で、彼女は無理やり連れ出されてしまい、本当はしたくもないコミュニケーションをしていくことになるんですね。すごく辛いことや自分と向き合うことになるようなショックを受ける出来事があって、少しずつ声を出すようになったり、コミュニケーションをとるように変わっていくんです。“光に満ちた、希望にあふれたこと”だけが人を変えるんじゃなくて、こういう“立ち上がれないようなショックを受けても、明日は来るっていうことに希望をもって踏み出していかなきゃいけない状況”が人を変えるときもある。途中、陽子が浜辺で絶望を感じるシーンがあるんですけど、その後に彼女は自分の呼吸を感じて、生きていることを感じて、すべてを滑稽に思うんですよ。印象的に出てくる海の映像も相まって、その生命力というか、自分の中の感情に気づいていくところが、自分とすごく近く感じられたんですね。ロードムービーですけど、その道のりを長い人生に置き換えられるような作品です。共感できた部分を皆さんにもシェアしてもらいたいですね。
菊地40歳とかになってくると、女優として演じられる役が限られてきたりする部分もあるんですよね。自分でも「あとどれくらいやれるかな」とか「何作やれるかな」って、漠然とした不安みたいなのを感じる時期でもあって。そんな中で20年ぶりに熊切監督に声をかけていただいて。監督は「映画ってこんなにおもしろいんだよ」って20年前にお兄ちゃんのように教えてくれた方だったので、「え、私まだまだ映画やってていいんだ」って後押しされたような気持ちになって。そんな監督との作品なので、すごくこぢんまりした作品ではありますが、20年たった現場でもすごく映画の楽しさっていうのをすごく味わえました。この作品をきっかけに初心に戻るというか、新しい気持ちみたいなものが芽生えてきたし、もっともっと役を演じたい、作品をやりたいっていう前向きな気持ちになりました。ここからまた20年を考えたときに、どんな人生を歩むかわからないですし、どういうキャリアになるかわからないんですけど、もしキャリアにつまづくようなことがあったときには、この作品を観たら後押ししてもらえるような、宝物のような作品に出られたなと思っています。
菊地さん自身も大切に思える作品になったという『658km、陽子の旅』。
あなたもスクリーンの前で、変わっていく主人公・陽子の姿に共感できるはず。
ぜひ、劇場へ!
[プロフィール]
菊地凛子(きくち・りんこ)
1981年、神奈川県生まれ。1999年、『生きたい』で映画デビュー。その後、2005年『バベル』ではアカデミー助演女優賞を含む多数の映画賞にノミネートされ、一躍世界的な脚光を浴びる。以降『パシフィック・リム』シリーズや『47RONIN』など海外作品に主要キャストとして多数出演。秋からNHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」の出演を控える。
『658km、陽子の旅』
2022年/日本/1時間53分
監督/熊切和嘉
出演/菊地凛子、竹原ピストル、黒沢あすか、見上 愛、浜野謙太、仁村紗和、篠原 篤、吉澤 健、風吹ジュン、オダギリジョー
配給/カルチュア・パブリッシャーズ
趣味は食べ歩きと勝手に決めつけられるものの、じつは小食。山形県北東部のカルデラの中で思春期を過ごし、性格は∞のようにねじ曲がってしまった。ベガルタ仙台を取材していた経験から、Jリーグと各クラブのホームスタジアムには結構行っている。ビジネスホテル好き。
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