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2023.07.31

【映画『658km、陽子の旅』インタビュー】菊地凛子さんが主人公・陽子を演じて共感したこととは?

フォーラム仙台にて7月28日(金)から公開中の映画『658km、陽子の旅』。
さえない人生を送るフリーターの40代独身女性・陽子を演じた菊地凛子さんが公開前の特別試写会に来場し、舞台挨拶を行いました。

「ありえないくらいベストなタイミングで雪が降ってきたり、思い出に残るシーンばかりです」と撮影でのエピソードを話してくれた菊地さん

あらすじ

『658km、陽子の旅』

フリーターとして引きこもり生活をする陽子(菊地凛子)は、かつて夢への挑戦を反対され20年以上断絶していた父が亡くなった知らせを受ける。
従兄の茂(竹原ピストル)とその家族とともに実家のある青森県弘前市に向け出発するも、茂の子どもが起こしたサービスエリアでのトラブルをきっかけに置き去りにされてしまうことに。
出棺は明日正午、果たして間に合うのか。

©2022「658km、陽子の旅」製作委員会

舞台あいさつ後にはインタビューに答えていただいたので、ここからはその模様をお届けします。

じつは東北・宮城と縁が深い!?
仙台のあるものが大好物

今日初めて仙台のお客さまにご覧いただきましたが、感想はいかがですか?

菊地すごくあたたかく受け入れてくださっている感じがあってうれしかったです。皆さんに作品の中でどこか響くところがあったらいいなと思いますし、来られてよかったと思っています。

仙台には好物があるとか?

菊地じつはずんだシェイクが大好きで。そのために少しでも早く仙台に来て買うということを目標にしてきました(笑)。家族にも飲ませてあげたいっていつも思うんですけど、溶けちゃうから難しいんですよね。

今回の映画は青森を目的地に東北を北上していくストーリーでしたが、実際の撮影を通して、東北に対する印象が変わったところなどはありますか?

菊地じつは、東北にはわりと縁があって。仙台に友人がいたり、親せきが福島にいたりして、もともと距離が遠く離れている感じがそんなにしなかったんです。映画の中ではいろんなシーンがありますが、シネマ的な風景がすごく多いなっていう印象がありましたね。あとは東北の冬っていうのはすごくいいなと思いました。なんだか詩的な雰囲気になりますよね。これが「南に向かう」っていう話だと主人公の陽子もまた違う人生だったかもしれないと感じますし。東北に向かうというストーリーで、すごく映画的になってよかったなと思います。

撮影のときには、現地の方々とふれあうような場面はあったんですか?

菊地撮影のときにはまだコロナ禍だったということもあって、スタッフ間でも最小限の接触しかできない状態で。みんなでご飯に行ったりもできなくて、お弁当でさえも一人で食べるしかなかったんですよ。でも、映画を作るということでいえば、そういう状況で一致団結することができた面もありました。すごく濃密な時間にできたと思っています。

20年間東京で暮らしているという設定の陽子ですが、セリフの津軽弁にも都会暮らしを経た自然な雰囲気が出ていました。

菊地英語やフランス語、手話もやったことがあったり、ほかの言語を話すような役をずっとやってきたので、津軽弁もその一つのような感じでしたし、すごく楽しかったですよ。でも、なぜか大阪弁や福島弁みたいなイントネーションが混じっちゃって(笑)。それをちょっとずつ修正していきましたね。

特別に見える陽子だけど
きっとみんな同じ経験があるはず

主人公の陽子は、コロナ禍や不景気などの影響でいろいろと閉塞感を抱えて生きている女性や、40歳前後という女性としても一番悩む年齢を生きる人たちにエールを送ってくれているようにも感じました。

菊地そうですね。陽子はすごく特徴的な人に見えるのかもしれないけど、そんなに特別ではないというか。こういう子がじつはたくさんいるんじゃないかと感じていて。私も陽子ほどではなくても、人とのコミュニケーションを難しいって感じたり、ふさぎ込んだり、そういうところはたぶんあると思うんです。過去も見れないし、未来も見たくないって思っちゃって、今にずっと留まっちゃう。長い人生の中でみんな一度や二度は経験しているようなことだし、演じていてすごく身近に感じられたんです。そんな中で、彼女は無理やり連れ出されてしまい、本当はしたくもないコミュニケーションをしていくことになるんですね。すごく辛いことや自分と向き合うことになるようなショックを受ける出来事があって、少しずつ声を出すようになったり、コミュニケーションをとるように変わっていくんです。“光に満ちた、希望にあふれたこと”だけが人を変えるんじゃなくて、こういう“立ち上がれないようなショックを受けても、明日は来るっていうことに希望をもって踏み出していかなきゃいけない状況”が人を変えるときもある。途中、陽子が浜辺で絶望を感じるシーンがあるんですけど、その後に彼女は自分の呼吸を感じて、生きていることを感じて、すべてを滑稽に思うんですよ。印象的に出てくる海の映像も相まって、その生命力というか、自分の中の感情に気づいていくところが、自分とすごく近く感じられたんですね。ロードムービーですけど、その道のりを長い人生に置き換えられるような作品です。共感できた部分を皆さんにもシェアしてもらいたいですね。

兄のような印象の熊切監督と
20年ぶりの作品づくり

20年ぶりに熊切監督からオファーを受けた今作は、菊地さんの中でどのような作品になりそうですか。

菊地40歳とかになってくると、女優として演じられる役が限られてきたりする部分もあるんですよね。自分でも「あとどれくらいやれるかな」とか「何作やれるかな」って、漠然とした不安みたいなのを感じる時期でもあって。そんな中で20年ぶりに熊切監督に声をかけていただいて。監督は「映画ってこんなにおもしろいんだよ」って20年前にお兄ちゃんのように教えてくれた方だったので、「え、私まだまだ映画やってていいんだ」って後押しされたような気持ちになって。そんな監督との作品なので、すごくこぢんまりした作品ではありますが、20年たった現場でもすごく映画の楽しさっていうのをすごく味わえました。この作品をきっかけに初心に戻るというか、新しい気持ちみたいなものが芽生えてきたし、もっともっと役を演じたい、作品をやりたいっていう前向きな気持ちになりました。ここからまた20年を考えたときに、どんな人生を歩むかわからないですし、どういうキャリアになるかわからないんですけど、もしキャリアにつまづくようなことがあったときには、この作品を観たら後押ししてもらえるような、宝物のような作品に出られたなと思っています。

菊地さん自身も大切に思える作品になったという『658km、陽子の旅』。
あなたもスクリーンの前で、変わっていく主人公・陽子の姿に共感できるはず。
ぜひ、劇場へ!

[プロフィール]
菊地凛子(きくち・りんこ)
1981年、神奈川県生まれ。1999年、『生きたい』で映画デビュー。その後、2005年『バベル』ではアカデミー助演女優賞を含む多数の映画賞にノミネートされ、一躍世界的な脚光を浴びる。以降『パシフィック・リム』シリーズや『47RONIN』など海外作品に主要キャストとして多数出演。秋からNHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」の出演を控える。

『658km、陽子の旅』
2022年/日本/1時間53分
監督/熊切和嘉
出演/菊地凛子、竹原ピストル、黒沢あすか、見上 愛、浜野謙太、仁村紗和、篠原 篤、吉澤 健、風吹ジュン、オダギリジョー
配給/カルチュア・パブリッシャーズ

フォーラム仙台

住所: 仙台市青葉区木町通2-1-33

電話:022-728-7866

HP:https://forum-movie.net/sendai

モツヲ
モツヲ

趣味は食べ歩きと勝手に決めつけられるものの、じつは小食。山形県北東部のカルデラの中で思春期を過ごし、性格は∞のようにねじ曲がってしまった。ベガルタ仙台を取材していた経験から、Jリーグと各クラブのホームスタジアムには結構行っている。ビジネスホテル好き。